わたしの恋人、まことの騎士・・・ルドルフ

わたくしは日に何度か、そう呟きます。
あなたとお別れしてからの日々は数えておりません。
ただ増えていくだけの日を数えたところで、なんになりましょう？
わたくしにはただ、あなたをあなたと知らぬまま過ごした
あの幸せな日々があるだけです。

サプトとフリッツからすべてを聞きました。
ヘンツォ伯爵があなたにかけた誘いの内容も。
そのことをサプトから聞いたときのわたくしの気持ちが、
おわかりになるでしょうか。

邪で卑劣な誘いに、わたくしのあなたがお乗りにならなかったことを誇らしく思い、
そしてその誘惑に乗ってわたくしを我が物にして下さらなかったことに悲しみました。
わたくしの幸せは、ただひたすらに、そこにあるのですから。

わたくしがルリタニア王室の女でなかったならば。
そして、恋がすべてであったならば。

何度そう思ったことでしょう。
王女という立場に迷い、女王となった立場に憂いているわたくしを支えているのは
ルリタニア国王として過ごし、王様のためにその命すら懸けて戦われ、
そして何の見返りをも求めず去って行かれたあなたです。
あなたがわたくしとの恋にご自分を見失うことなく去って行かれたからこそ、
わたくしも自分を見失うことなく女王として、このルリタニアを守ることが出来るのです。

それでも、わたくしは１日に何度か、呟かずにいられないのです。
「わたくしの恋人、まことの騎士・・・ルドルフ」と。

王様でないあなたが私を愛して下さったように、
女王でないわたくしもあなたを愛してやまないです。

ルドルフ。

わたくしは、朝に夕に、あなたと同じ髪の色をして、
あなたの顔にそっくりなあの方と過ごさなければなりません。

その幸福。

その不幸。

あなたを忘れたくとも忘れられない喜びと苦しみに、
あなたからいただいた指輪が形を変えてしまいそうです。
だからわたくしは、もう一度お会いできると信じることにいたしました。

いつ、どこで、どのような形でお会いできるのかはわかりません。
ただわたくしはその日が来ることを信じて、生き続けて参ります。

ルドルフ。

どうかその日までお元気で・・・

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　永久にあなたのフラビアより

フラビアは手紙を丁寧に折り畳み、蝋で封をすると印を押す。
そして暖炉の前へ行くとその手紙を火の中に投じた。


何十通目かの決して届くことのない手紙が、炎の中で激しく踊っているのを、
フラビアは、ただじっと見つめていた。