私を見て・・・私はここにいる。ここにいるわ・・・
戦争のまっただ中で敵として出会った、私とあなた。
私はレジスタンスのスパイ、あなたはナチの将校。
確かに始めあなたに近づいたのは、情報を得るためだった。
でもあなたは、私たちが想像しているような、冷酷無比なナチの軍人ではなかった。
抵抗するレジスタンス達を、笑いながら殺していくような、そんな人間ではなかった。
意味もなく殺し合うこの戦争に、あなたはハッキリと嫌悪と、そして自分の無力さを感じていたわ。
だから、私はあなたに近づいたのかも知れない。あなたなら、私たちをわかってくれると。
フランスを、パリを、守りたいという私たちに、協力してくれるかも知れないと・・・
あなたは、私たちの仲間になった。
でも、だから、あなたに惹かれたんじゃない。
私はずっと見ていた。探していた・・・あなたを。
あなただから、仲間になって欲しかった。
仲間になってくれて、嬉しかった。
戦争が終われば、何もかも捨てて私たちは自由になれる。そう、信じてた・・・
なのにあの日、司令部に戻るあなたを見送ったのが、最後になるなんて。
そして、あなたを暗い闇の中へ取り残すことになるなんて・・・
私は、夢の果てで眠りについたわ。
アリオンが私を呼び寄せる。
扉をそっと開くと、いつでもあなたがいたわ。喜んでくれると思った。
でも・・・私たちの手はすれ違い、あなたは私を抱きしめることができない・・・
あなたは虚ろな瞳で、私を見ていた。
私を見ていながら、私を見ていなかった。
あなたは私の幻を見ている。
そう気が付いたのは、いつの頃だっただろう・・・
アリオンが私を呼び寄せる。
私は確かにあなたの前にいるのに、あなたは・・・
あなたは自分が生み出した私の幻に、目を奪われている。
そして、私を見失い、追いつめられている。
あなたは、私を撃った瞬間を忘れられないでいる。
そして自分だけが生き残ったことを、後悔しているのね・・・
私を見て。私はここにいる。ここにいるわ。
私は、あなたを恨んでなんかいない。
生き残ったあなたを、恨んでなんかいない。
惑わされないで。
あなたが生み出した幻に、囚われないで・・・
どんなに私がそう呼びかけても、あなたに私の声は聞こえない。
私の思いは伝わらない。
私の幻に苛まれいているあなたには、夢の果てにいる本当の私の思いが、届かない・・・
誰か伝えて。
生きていていいんだ、と。
私はあなたに生きていて欲しいと思っていたのだ、と。
お願い、誰か・・・
ルシル！
あぁ、ルシル。大きくなって・・・そうだわ、お願いルシル！伝えて、彼に。
あなたが生きているように、彼も生きていていいのだと。
闇に囚われている彼を、救って。
私では・・・私では救えない・・・
闇が彼を飲み込もうとしているわ。時間がない。
彼は、ここに来てはいけない。まだ、ここに来るべき人ではない。
ルシル！
アリオン！
お願い、彼を・・・彼を救って！
・・・私の思いが、やっと届いたのね・・・
彼は歩き始めた。闇を振り切り、私の幻から放たれた。
最後に私の、本当の私の姿を見つけてくれた。
そして私も・・・夢から解き放たれた。
そうよ、私はあなたを愛していた。
ずっと、ずっと愛し続けているのよ・・・