＜春＞

「今日から共に学ぶ霧音だ」

お師匠様に連れられてやって来たその少年は、年の割にまだあどけなさを残し、
ほっそりと華奢な体つきをしていた。

「お前の隣部屋におくことにしよう。何事もよく導いてやるように」
「はい」

師匠が立ち去ってからしばらく、私達はその場に座り込んだままでいた。
なにを話して良いのかわからない。

「……お国は……どちらですか？」

最初に口を開いたのは霧音の方だった。

「あぁ。安芸の国の出だ。お前は？」
「私は常陸の国から参りました」
「常陸か……遠いな」
「あの……雪若どの」
「ん？」
「お師匠様はこのあと、今日は休んでいて良いとおっしゃったのですが、
　出来れば私はこの館の中の様子と、明日からしなければならない雑事を
　知っておきたいのです。もし良ければ教えて頂けますか？」
「あぁ、わかった。では、お前の準備が出来たら案内してやろう」
「よろしくお願い致します」

あまりにも堅苦しい霧音の様子がおかしかった。

「そんなに緊張することはない。私は兄弟子といってもほんの少しのことだ
　部屋も隣だし、修行も共にすることが多いだろう。もっと肩の力を抜け」
「はい、雪若どの」
「雪若でいい。……仲良くしよう」
「……ありがとう、雪若」

やっと微笑みを浮かべた霧音の顔に、なぜか国にいる妹を思い出した。
（兄弟子の俺が守ってやらなくちゃ……）
そう思わせる笑顔だった。

<夏>につづく