赤い花の誘惑

疲れた・・・

隊とはぐれてからもう何日、こうして彷徨っているのか・・・

蒼い月が砂漠を照らし出している

予備の食料も水も、もう底を尽きた

敵か味方かわからない音のおびえ、

影に惑わされ、銃を構えては下ろす

俺はこのまま、死を待つだけなのか・・・

銃を杖代わりにして俺はただ、足を交互に前に出す

あてのない、砂漠に向かって・・・

家族も、恋人も失って

風にながされるように外人部隊に入り、ここまで来た

敵に怨みがあるわけでもない、ましてや憎しみなど・・・

俺はただ、敵だと言うだけで殺し続けてきた

自分が生き残るために、殺し続けてきた

このまま俺は、どこへ行き着くのか・・・

遠くで、何かがうごめいている

目を凝らし、何とか力を振り絞って近づく

敵か、味方か・・・

あれは、敵だ

敵の軍服を着た男が、フラフラと歩いている

まるで、何かに操られているかのように

どうする？撃つか？

ヤツは一人か？それとも、仲間がいるのか？

俺はジッと見つめる

周囲に人の気配はなさそうだ・・・

どうする？

今さら敵を殺したところで、報酬が出るわけでもない

しかし、ヤツは食料を持っているかもしれない

それがあれば、俺は生き延びて仲間と合流できる・・・

ヤツは相変わらずフラフラとして、俺に気づいている様子はない

今なら確実に殺せる・・・

俺は、銃を構えた

１発の銃声が、蒼い砂漠にとどろく・・・

仕留めた

ヤツが崩れ落ちる

また、敵を倒した・・・

敵？・・・本当に敵だったのか？

俺は走って駆け寄ってみる

砂に足を取られ、なかなか進むことができない

やっと、ヤツが倒れた辺りに到着した

しかし、撃たれたはずのヤツの姿が見あたらない

おかしい・・・

確かに、この辺りに崩れ落ちたはずだ

辺りを見回す



「・・・花？」

赤い花が一輪、咲いている

この不思議な感覚は、なんだろう？

蒼い月明かりの下

俺を誘うように揺れている、赤い花・・・

まるで意志を持っているかのように

俺の方に向かって咲いている、赤い花・・・

俺はその花を手折った・・・

その瞬間、一陣の風が吹き抜けた

気が付くと、まるで俺を取り囲むように

赤い花が辺り一面を覆い尽くしている

いや ・・・・・・ 見渡す限り、赤い花の海だ！

背筋が、ゾッとする

一体、ここはどこなんだ？！

俺はどこにいるんだ？！

一面に咲き乱れる花の中

ひときわ大きく咲く赤い花が一輪、風に揺れている

俺はその花に向かって、銃弾を撃ち込んだ・・・